民泊に必要な建築基準法のチェックリスト|法改正が与える影響も紹介

民泊を始めるには、建築基準法をはじめとする各種法令への対応が必要です。特に用途地域や採光・換気といった建築基準法の要件を満たすことは、安全で合法な運営の基本です。
この記事では、民泊に必要な建築基準法の主なチェック項目や、2025年4月に実施された法改正などについて紹介します。
建築基準法とは?

建築基準法とは、建築物の敷地や構造、設備および用途に関する最低の基準を定めている法律のことです。建築物の安全性の確保や公共の福祉の増進を目的としています。
この法律は、建物が適切に設計・建築されるための基準を定めており、公共の安全や健康に直結する重要な役割を果たしています。具体的には、下記のような項目で定められた要件を満たさなければなりません。
- 構造
- 耐震性
- 採光
- 換気
- 火災対策
これにより、建物が自然災害や火災などの危険から住民を守ることができるように設計されています。また、用途地域に応じた建物の種類や高さ、面積なども制限されており、地域の特性に合った開発が促進されています。
民泊を運営する際には、この建築基準法をはじめ、旅館業法や住宅宿泊事業法など関係法令の遵守が不可欠です。これらに違反した場合、罰則や営業停止のリスクがあるため、事前にしっかりと確認しましょう。
民泊運営の3つの形態

民泊の運営形態は大きく分けて3つに分類されます。それぞれの形態には異なる法律や規制が適用されるため、運営を始める前にしっかりと理解しておくことが重要です。
ここでは、民泊運営の3つの形態について紹介します。
民泊新法
民泊新法は、住宅を有料で短期間貸し出す民泊事業を規制する法律で、2018年6月に施行されました。従来の旅館業法とは異なる新たな枠組みが設けられ、より多くの人々が民泊を利用しやすくなりました。
民泊新法では、年間宿泊提供日数が180日以内と制限されており、自治体への届出や近隣住民への配慮などが求められています。
参考:民泊制度ポータルサイト minpaku「3つの制度比較」
これにより、地域社会との共存を図りつつ、観光客に対しても安心して宿泊できる環境を提供することが目的です。観光地において、宿泊施設の不足を解消する手段としても期待されています。
また、民泊新法に基づく運営では、建築基準法上の用途変更手続きが不要な場合があります。ただし、物件の状況によっては必要となる場合もあるため、事前に確認が必要です。
旅館業法
旅館業法は、ホテルや旅館などの宿泊施設を安全・衛生的に運営するためのルールを定めた法律です。
民泊を旅館業法で運営する場合「旅館業の営業許可」を取得しなければなりません。この許可は、施設が法令で定められた基準を満たしていることを示すもので、下記の有無などが確認されます。
- 客室の広さ(例……寝台を置く場合は9㎡以上、置かない場合は7㎡以上)
- 衛生設備
- 換気・採光
- トイレ・洗面設備
また、旅館業法では宿泊者の安全確保のため、火災や地震といった災害への対策も重視されています。具体的には、消防法や建築基準法に基づき、下記の対応が必要です。
- 消火器の設置
- 火災報知器の設置
- 避難経路の確保
- 防火管理者の選任
さらに、旅館業法に基づいて民泊を運営するには、宿泊者への情報提供や苦情対応体制の整備も求められます。例えば、苦情窓口の設置や対応手順の明示など、利用者が安心して宿泊できる環境づくりが重視されます。
特区民泊
特区民泊は、特定の地域において民泊を運営するための特別な制度です。正式名称は「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」で、国家戦略特区と略されることもあります。
参考:民泊ポータルサイト minpaku「特区民泊について」
特区民泊を運営するには、国家戦略特区に指定された地域であることが前提で、自治体の認定申請をしなければなりません。申請時には、運営計画の提出や近隣住民への事前説明、苦情対応体制の整備などが求められます。地域のルールや、条例に基づいた適切な運営が不可欠です。
この制度の最大の特徴は、特定地域において旅館業法の規制が一部緩和される点です。例えば、通常の民泊とは異なり年間宿泊日数の制限はなく、2泊3日以上の宿泊が条件となります。
また、地域によっては建築基準法の一部規定についても特例が適用される場合があります。ただし、すべてが免除されるわけではないため、詳細は自治体ごとに確認が必要です。
民泊運営に関する建築基準法規制は緩和された?

近年、民泊の普及に伴い、建築基準法に関する規制が見直されています。特に、2018年の法改正により、小規模な民泊施設は下記のように運営がしやすくなりました。
対象建物 | 緩和内容 |
延べ面積200㎡以下の建物 | 用途変更時の「建築確認申請」が不要 |
延べ面積200㎡未満・3階建て以下の戸建住宅 | 耐火建築物とする要件が緩和され、3階部分も民泊として利用可能 |
ただし、建物の用途変更に伴い、採光や換気に関する基準を満たす必要がある点は変わりません。また、建築基準法では、建物の敷地が幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接していることが義務付けられており、民泊施設を運営する際には、この接道義務を満たしているか確認が必要です。
さらに、規制緩和が進む一方、地域ごとの条例や特有の要件が依然として存在するため、事業者は注意が必要です。特に、地域の特性や住民の意向を考慮した運営が求められるため、単に建築基準法をクリアするだけでは不十分です。今後も、法改正や地域の動向を注視しながら、適切に民泊を運営しましょう。
民泊に必要な建築基準法の主なチェック項目

民泊を運営する際は、建築基準法に基づくさまざまなチェック項目を確認しなければなりません。民泊に必要な建築基準法の主なチェック項目を把握し、安全で快適な宿泊環境を提供しましょう。
ここでは、民泊運営における主なチェック項目を解説します。
用途地域
民泊を運営する際に重要な要素の一つが「用途地域」です。用途地域とは、都市計画法に基づいて定められた地域の分類のことで、各地域で許可される建築物の用途が異なります。
例えば、住宅専用地域(第一種低層住居専用地域)では、民泊の運営が制限されることが多いものの、民泊新法の場合は、工業専用地域を除くほとんどの用途地域で運営が可能です。
用途地域は以下の13種類に分類されます。
- 第一種低層住居専用地域
- 第二種低層住居専用地域
- 第一種中高層住居専用地域
- 第二種中高層住居専用地域
- 第一種住居地域
- 第二種住居地域
- 準住居地域
- 田園住居地域
- 近隣商業地域
- 商業地域
- 準工業地域
- 工業地域
- 工業専用地域
ただし、民泊新法で運営が可能な地域でも、各自治体が独自に定める条例により、営業日数や時間帯、運営形態(家主居住型か不在型か)などに制限が設けられている場合があります。
さらに、用途地域に関する規制は地域住民の生活環境を守るために設けられており、無視して民泊を運営した場合は、運営停止命令や罰則が科される可能性があります。そのため、物件がどの用途地域に属しているのかを確認し、地域の条例や規制をしっかりと調査することが不可欠です。
用途変更
用途変更とは、建物の使用目的を変更する手続きのことです。住宅を民泊として利用する場合、適用される法律によって手続き方法が異なります。
具体的には、住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づく民泊では、建物は「住宅」として扱われるため、用途変更の手続きは不要です。一方、旅館業法に基づく簡易宿所として民泊を運営する場合、建物の用途を「住宅」から「旅館・ホテル」に変更する必要があります。
用途変更の手続きは、所管の行政庁に対して行い、申請が承認されることで初めて民泊として運営できます。この際、建物が民泊としての要件を満たしているかどうか、周辺環境への影響なども考慮されるため事前準備が必要です。
採光と換気
建築基準法では、居室の採光と換気の基準が定められており、これを満たすことが求められます。
まず、採光についてですが、居室には一定の面積の窓が必要であり、自然光を取り入れることで快適な住環境を提供するのが目的です。基準は下記のとおりです。
- 従来の基準……居室の床面積に対して、1/7以上の採光有効面積が必要
- 建築基準法改正後(2023年4月1日)….. 1/10以上の採光有効面積でも適合とされる(床面照度が50ルクス以上になる照明設備を設置していること)
換気は、室内の湿気や臭気を排出し、健康的な生活環境を維持するために欠かせません。建築基準法では、下記いずれかの方法によって十分な換気を確保することが求められています。
- 自然換気……居室の床面積に対して1/20以上の有効開口部(窓など)を設ける。
- 機械換気……換気扇などの設備により、必要な換気量を確保する。
これらの要件を満たしていないと、民泊としての運営が認められない可能性があります。また、採光や換気の基準をクリアしていない場合には、建物の用途変更の手続きが必要になることもあるため、事前にしっかりと確認しておくことが大切です。
耐火建築物
耐火建築物とは、火災発生時に建物の構造や内装が火の延焼を防ぐよう設計された建物のことです。宿泊施設として利用される民泊では、宿泊者の安全を確保するために、耐火性能の確保が求められます。
建築基準法では、建物の階数や延べ面積、用途に応じて耐火建築物とする必要性が定められています。3階建て以上の建物は原則として耐火建築物とする必要があります。ただし、延べ面積が200㎡未満の場合、一定の条件を満たせば耐火建築物としなくても良いとされています。
木造の民泊施設の場合、耐火性能を確保するために下記などの対策が必要です。
- 準耐火構造の採用
- 防火設備の設置
- 内装制限の遵守
また、耐火建築物としての基準を満たすだけでなく、消防法や地域の条例にも適合する必要があります。例えば、自動火災報知設備や非常用照明、避難誘導灯の設置が求められる場合があります。
民泊を運営する際には、建物が耐火建築物としての要件を満たしているかを確認し、必要に応じて構造や設備の見直しを行うことが重要です。延べ面積や階数、地域の条件によって対応が異なるため、不安な場合は建築士や行政の窓口へ相談しましょう。
竪穴区画
竪穴区画とは、建物内で火災が発生した際に、煙や炎が階段やエレベーターシャフトなどを通じて上階へ広がるのを防ぐための防火区画です。
地階または3階以上に居室がある建物では、建築基準法により竪穴区画の設置が必要です。ただし、3階部分を宿泊用途に供さない場合は、竪穴区画の設置が不要となるケースもあります。
また、竪穴区画の壁や天井は、所定の耐火性能を持つ材料で構成する必要があります。区画内の開口部には、下記のような防災設備も設置しなければなりません。
- 常時閉鎖式の防火扉
- 火災時に自動的に閉鎖する防火設備
竪穴区画の設置は、建物の設計段階から計画することが重要です。既存の建物を民泊施設に用途変更する場合は、竪穴区画の要件を満たすための改修工事が必要になるでしょう。
接道義務
接道義務とは、敷地に建物を建てる際「道路に2メートル以上接していなければならないと」定められた規定のことです。緊急車両の通行や災害時の避難経路を確保し、建物の安全性や利便性を高めることが目的です。
参考:足立区「接道の長さ」
民泊を運営する際、建物が「旅館業」に該当する場合、建築基準法上の「特殊建築物」として扱われ、一般的な住宅よりも厳しい接道義務が課される場合があります。例えば、東京都では特殊建築物の用途に供する部分の床面積に応じて、敷地が接する道路の長さが定められています。
参考:大田区「敷地は、道路にどれだけ接しなければなりませんか」
接道義務を満たしていない敷地では、新たな建物の建設や既存建物の用途変更が制限されるでしょう。そのため、民泊の運営を検討する際には、事前に敷地の接道状況を確認し、必要に応じて専門家に相談してみてください。
2025年4月の建築基準法改正が民泊に与える影響は?

2025年4月に施行される建築基準法の改正は、下記などが盛り込まれており、オーナーには新たな対応が求められる場合があります。
- 用途変更手続きの一部緩和
- 建築確認申請制度の見直し
- 違法民泊への罰則強化
延べ床面積200㎡以下の空き家を民泊に転用する際、用途変更時に建築確認申請が不要になります。これにより、小規模物件を活用した民泊が以前よりもスムーズに始められるようになるでしょう。
一方、これまで審査が省略されていた小規模建築物に関する「4号特例」が縮小されるため、2階建て以上の住宅も原則として構造審査の対象です。これは、建物の耐震性や防火性能といった安全性をより確実に確保するための見直しです。
また、すべての新築建築物には省エネ基準の適合義務が課されるようになり、建築確認申請時に省エネ性能に関する図書の提出が必要です。設計・申請業務の複雑化を意味し、運営開始までの準備期間やコストにも影響を及ぼす可能性があります。
違法民泊への取り締まりも強化され、無許可営業に対する罰則が厳しくなる方向で議論が進んでいます。なお、用途地域や換気・採光に関する大幅な規制緩和については、現時点で具体的な発表はありません。これらについては引き続き最新情報の確認が必要です。
このように、2025年4月の建築基準法改正は、民泊運営に新たな機会をもたらす一方、構造安全性や法令遵守に対する責任もより重くなることが見込まれます。今後の動向を注視し、事前に建築士や行政の窓口に相談しながら、早めに準備を進めましょう。
旅館業で民泊を申請する際の注意点

民泊を旅館業として申請する際には、いくつかの重要な注意点があります。適切な対策を講じて、民泊を運営しましょう。
ここでは、旅館業で民泊を申請する際の注意点を紹介します。
建築基準法を満たしているかチェックする
民泊を運営する際には、建築基準法を満たしているかどうか確認しましょう。
まず、建物の構造や設備が採光や換気の基準を満たしているかを確認しなければなりません。これらは居住者の快適性や安全性に直結するため、特に注意が必要です。
さらに、耐火建築物の基準も確認しましょう。民泊として利用する場合、火災のリスクを軽減するために、耐火性のある材料や構造が求められることがあります。
また、竪穴区画や接道義務についても確認が必要です。建築基準法を満たさないと「既存不適格建築物」と判断されるため、改修工事をしなければならないことに留意してください。
地域の条例をチェックする
民泊を運営する際には、建築基準法だけでなく、地域の条例もチェックしなければなりません。
各自治体では、地域の特性や住民の生活環境を考慮して独自の規制を設けており、民泊の運営に関するルールは地域ごとに異なる傾向にあります。例えば、特定の地域では民泊の営業が禁止されている場合や、営業日数に制限がある場合があります。
地域の条例をチェックすれば、運営に必要な許可や手続き、近隣住民とのトラブルを避けるための重要な情報を得ることが可能です。特に、観光地や住宅地などは地域の特性に応じた規制が設けられていることが多いため、事前調査を行いましょう。
立地の規定をチェックする
立地の規定は、地域の特性や周辺環境に応じて異なるため、事前調査が必要です。特に、用途地域や住環境に応じた適切な場所選びが、トラブル回避やスムーズな運営の鍵となります。
まず、民泊が許可されている地域とそうでない地域があるため、用途地域の確認が必要です。例えば、住宅専用地域では民泊の運営が制限されることが多く、事前に地域の用途地域を確認し、適切な手続きを行わなければなりません。
次に、周辺環境の影響も考慮する必要があります。近隣住民とのトラブルを避けるには、騒音や交通量、駐車スペースの確保など周囲の状況を把握しておくことが大切です。また、観光地や交通の便が良い場所は、民泊にとって有利な立地となるため、立地選びは慎重に行いましょう。
まとめ
民泊を運営するには、建築基準法をはじめとする各種法令への適切な対応が不可欠です。特に、用途地域や採光、換気といった基本的な要件を満たすことは、安全で合法な運営を実現するための基盤となります。
2025年の法改正を含む最新情報を把握し、地域の条例も踏まえた準備と確認を行って、安全かつ持続可能な民泊運営を実現しましょう。