民泊と旅館業、譲渡するならどちらが有利?M&Aの観点から比較解説

「将来的に事業を売却することも見据えて、民泊と簡易宿所どちらで始めるべきか迷っている」
「今運営している民泊(または旅館)は、M&A市場でどれくらい評価されるのだろう?」
宿泊事業に参入する際、あるいは出口戦略(エグジット)を考える際、このような疑問を持つ経営者の方は少なくありません。
宿泊事業は大きく「民泊(新法・特区)」と「旅館業(簡易宿所など)」に分かれますが、実は事業譲渡(M&A)の進めやすさや買い手からの評価において、両者には明確な違いがあります。
この記事では、宿泊事業に特化したM&A仲介の専門家が、「M&Aによる譲渡」という観点から民泊と旅館業を比較・解説します。
比較1:許認可の「引き継ぎ(承継)」のしやすさ
M&Aにおいて最も大きな違いとなるのが、許認可の取り扱いです。
旅館業(簡易宿所など)は承継が可能
2023年(令和5年)の旅館業法改正により、旅館・ホテル営業や簡易宿所営業の許可は、事前の承認手続きを経ることで買主への「承継」が可能になりました。
これにより、事業譲渡のタイミングで営業を一時停止する(ダウンタイム)必要がなくなり、スムーズに運営体制を移行できるようになったため、M&Aのハードルが大きく下がりました。
民泊(住宅宿泊事業・特区民泊)は再申請が必要
一方、新法民泊や特区民泊の場合、現在のところ事業譲渡に伴う許認可の引き継ぎ制度はありません。
買主は、売り手が廃止届を出した後に、新たに届出や認定の申請をやり直す必要があります。この申請期間中(ダウンタイム)は営業ができず、家賃だけが発生してしまうため、M&Aの交渉において「ダウンタイム中の家賃負担をどちらがどう持つか」といった調整が必要になります。
➡ 結論:許認可の引き継ぎやすさでは「旅館業」が圧倒的に有利
比較2:事業の売却相場・マルチプル
続いて、企業価値評価(いくらで売れるか)の違いです。
基本的な相場は「年間利益の2.0〜3.5倍」
結論から言うと、民泊であっても旅館業であっても、M&Aにおける基本的なマルチプル(利益倍率)の相場は「年間利益の2.0〜3.5倍」となるケースが多いです。
事業が稼ぎ出す「実質的な利益(EBITDA)」をベースに評価されるという根幹の考え方は共通しています。
旅館業の方が高評価を受けやすい理由
ただし、同じ利益額であっても、実務上は「旅館業」の方が、相場の上振れを狙いやすい傾向にあります。その理由は以下の通りです。
- 営業日数の制限がない:新法民泊(年間180日制限)のような制約がないため、買い手から見て将来の収益予測が立てやすい。
- 参入障壁の高さ:旅館業許可は民泊に比べて取得(用途変更や消防整備など)のハードルが高いため、「すでに許可が下りている状態」そのものに高い価値が認められます。
➡ 結論:基本相場は同じだが、安定性・参入障壁の観点から「旅館業」の方が評価を高めやすい
比較3:買い手の層と「譲渡のしやすさ」
案件が市場に出た際の「買い手の付きやすさ」にも違いがあります。
民泊の買い手は「個人投資家・新規参入層」が多い
民泊M&Aの魅力は、小規模な物件が多く投資額が比較的小さく済む点です。
そのため、「これから副業で始めたい会社員」や「個人投資家」からのニーズが非常に高く、買い手候補を広く集めやすい(マッチングしやすい)という特徴があります。
旅館業の買い手は「法人・同業他社」が多い
旅館業の案件は、規模が大きく投資額も数千万円〜数億円単位になることが多いため、主な買い手は「事業拡大を狙う宿泊事業者」や「異業種からの参入を狙う法人」になります。
買い手の母数自体は民泊に比べて少なくなりますが、資金力のある法人が相手となるため、良い物件であれば高値でのスムーズな成約が期待できます。
➡ 結論:民泊は「買い手が見つかりやすい」、旅館業は「法人相手に高く売れやすい」
まとめ
M&A(事業譲渡)の観点から、民泊と旅館業の違いを比較しました。
- 許認可:旅館業は引き継ぎ可能。民泊は再申請が必要。
- 相場:どちらも「年間利益の2.0〜3.5倍」だが、旅館業の方が評価が高くなりやすい。
- 買い手:民泊は個人向けの需要が高く、旅館業は法人向けの需要が高い。
出口戦略(エグジット)まで見据えた上で宿泊事業を展開する場合、初期投資(用途変更手続きや消防設備費用など)をかけてでも「旅館業」の許可を取得しておくことは、将来の売却時に間違いなく有利に働き、大きなリターンをもたらす可能性が高くなります。
民泊投資や民泊運営を検討している方は、
新規開業だけでなく、民泊M&Aも一つの選択肢として検討してみてはいかがでしょうか。
民泊専門M&A仲介 Tabiji Partnersに相談する
本記事の監修
株式会社Tabiji Partners代表取締役
濱口優太郎
東京都の旅館業民泊・住宅宿泊事業を中心に、東京都の各種民泊事業譲渡プロジェクトのメインアドバイザーとして、民泊・旅館業M&Aを成約に導く。個人での仲介実績は30件超