ホテル・旅館M&Aとは?市場動向と譲渡相場、成功のポイントを解説

近年、インバウンド需要の急回復と宿泊単価の上昇を背景に、ホテルM&A市場が活発化しています。
大手ホテルチェーンや投資ファンド、異業種・海外投資家など多様な買い手が参入し、買収による拠点拡大やインバウンド需要の取り込みを狙う動きが顕著です。
本記事では、ホテルM&Aの市場概況・活発化の背景・買い手企業の種類・買い手のメリット・売り手のメリット・関連業界の動き・最新事例・成功のポイント・相談先まで、買収を検討する企業に必要な情報を網羅的に解説します。
ホテルM&Aによる事業拡大や参入をご検討中の方は、ぜひ最後までご覧ください。
ホテルM&A市場の概況

ホテルM&A市場は、インバウンド回復と宿泊需要の拡大を追い風に活発化しています。
ここでは、市場全体の動向と、件数・取引額の推移を整理して解説します。
インバウンド回復と宿泊需要の拡大で増加するホテルM&A
コロナ禍を経て、インバウンド需要は急回復し、訪日外国人旅行者数は過去最多の水準まで回復しています。
宿泊単価(ADR)も上昇傾向が続き、特に東京・大阪・京都など都市部のホテルは高い稼働率を維持しています。
宿泊施設の不足が顕在化する中、大手ホテルチェーンや投資ファンドが客室確保を狙ったM&Aを積極化させています。
売り手側も、コロナ禍で経営難に陥ったホテルや、後継者不在に悩む中堅ホテルが、再生・承継を目的に売却を選ぶケースが増加。
市場全体として、買い手・売り手双方のニーズが合致し、M&Aが極めて活発な状況となっています。
インバウンド需要、後継者不在、施設更新負担などを背景に、ホテル・旅館業界では今後もM&Aが活用される可能性があります。
ホテルM&A件数と取引額の推移
国内不動産・ホテル業界のM&A件数は、コロナ禍前の2019年に181件を記録した後、2020年は158件と一時減少しました。
一方で、M&Aの取引金額は近年高い水準で推移し、1件あたりの取引規模が拡大する傾向がみられます。
特に国内企業同士のM&A(IN-IN型)では過去最高水準の5,577億円を記録し、大型再編が進行中です。
コロナ収束後は、経営難のホテルが海外ファンド・大手チェーンへ売却される動きが活発化し、案件数・金額ともに回復・成長基調にあります。
1件あたり数十億〜数百億円規模の大型案件も珍しくなく、市場の成熟が進んでいます。
今後5〜10年は、業界再編の最盛期となる見込みです。
ホテル業界でM&Aが活発化している背景

ホテルM&A活発化の背景には、業界特有の構造的課題が存在します。
ここでは、後継者不足・コスト負担・人手不足・二極化という4つの観点から、その要因を整理して解説します。
経営者の高齢化と後継者不足
ホテル業界では、経営者の高齢化と後継者不在が深刻な課題となっています。
ホテル・旅館業界では、経営者の高齢化や後継者不在が重要な経営課題となっています。
ホテル経営は長時間労働や24時間対応の特性から、家族・親族による承継が難しいケースが多いのも実情です。
そこで、M&Aによる第三者承継が、廃業を回避し従業員と事業を守る現実的な選択肢として注目されています。
買い手側にとっても、後継者問題を抱える優良ホテルは魅力的な買収対象となります。
設備投資・老朽化対応のコスト負担
ホテル建物は経年劣化が進みやすく、外壁・空調・配管・客室の大規模修繕だけで数億〜数十億円が必要なケースが多々あります。
また、インバウンド対応の多言語化、Wi-Fi整備、自動チェックインシステムなどのDX投資も避けられません。
中小ホテル単独では、こうした継続的な設備投資負担を背負いきれないケースが増加しています。
資本力のある大手・ファンドへの売却を通じて、設備更新と事業継続を両立させる動きが広がっています。
買い手にとっても、リノベーションを前提とした取得は割安な物件確保のチャンスとなります。
人手不足とDX対応の遅れ
ホテル業界の人手不足は深刻で、正規・非正規を問わず6割超のホテルが人材不足を訴えているとされます。
フロント・調理・清掃のスタッフ確保が難しく、客室稼働を制限せざるを得ないホテルも少なくありません。
また、OTA戦略・PMS導入・AI顧客管理・自動チェックインなどのDX対応で、中小ホテルは大手に大きく後れを取っています。
M&Aを通じて、大手の人材・システム・運営ノウハウを獲得することが、業界全体での生産性向上の鍵となっています。
業界全体の構造課題が、M&A加速の大きな原動力となっているのです。
地方ホテルと都市部ホテルの二極化
ホテル業界では、都市部と地方の業績格差(二極化)が顕著に進んでいます。
東京・大阪・京都などインバウンドが集中する都市部のホテルは高稼働・高単価で好調を維持。
一方、地方ホテルは固定客の獲得が難しく、経営難に陥るケースが増えています。
地方ホテルの再生をかけて、大手チェーンや投資ファンドの傘下入りを選ぶM&Aが活発化し、買い手にとっては割安な物件取得の好機となっています。
二極化は地方創生・観光立国の課題でもあり、政府支援とM&A活用が今後ますます重要となります。
ホテルM&Aで積極的な買収を進める企業・投資家

ホテルM&A市場では、4タイプの買い手が積極的な買収を進めています。
ここでは、それぞれの特徴と買収戦略を整理して解説します。
大手ホテルチェーンと運営オペレーター
大手ホテルチェーンと運営オペレーターは、ホテルM&Aの中核的な買い手です。
アパホテル、東横INN、ルートインホテルズ、プリンスホテルズ&リゾーツ、星野リゾート、藤田観光、共立メンテナンスなど、国内大手が積極的に拠点拡大を進めています。
また、ヒルトン、マリオット、アコー、ハイアットなど外資系ブランドも日本市場で買収・運営委託契約を拡大しています。
買い手のメリットは、ブランド統合による集客力強化、エリア拡大、運営効率化です。
売り手にとっては、大手の経営資源を活用した事業継続が魅力となります。
J-REITや宿泊特化型ファンド
J-REIT(上場不動産投資信託)や宿泊特化型ファンドは、安定的なホテル買収の主要プレイヤーです。
ジャパン・ホテル・リート、星野リゾート・リート、インヴィンシブル投資法人、いちごホテルリートなど、ホテル特化型REITが複数存在し、市場を牽引しています。
彼らはCap Rateベースで物件を評価し、安定収益を生み出す物件への長期投資を志向します。
不動産信託受益権譲渡やセール&リースバックのスキームで取引することが多く、所有と運営を分離した柔軟な買収が特徴です。
金融市場との連動性が高く、低金利環境下では特に活発な買い手となります。
中国・香港など海外投資家の参入
中国・香港・シンガポール・中東などの海外投資家も、日本のホテル市場に積極参入しています。
訪日外国人観光客の急増を背景に、観光地立地のリゾートホテルや都市部のシティホテルを中心に買収を進めています。
ベインキャピタル、ブラックストーン、KKR、ローンスターなどグローバルPEファンドも大型買収を実行。
資金力と国際的なネットワークを活かし、買収後はリブランディングやインバウンド集客強化で価値を高める戦略をとっています。
円安傾向下では、海外投資家にとって日本のホテルが割安に映り、M&Aへの関心が一段と高まっています。
不動産業・異業種からの参入企業
不動産業や異業種からの新規参入企業も、ホテルM&Aを活発に行っています。
ヒューリック、霞ヶ関キャピタル、東急不動産、三菱地所、住友不動産など不動産大手がホテル運営事業へ参入しています。
また、ニトリ・東武鉄道・近鉄グループなど異業種大手が、地域貢献や事業多角化を目的にホテルを買収する事例も増加。
鉄道会社による沿線観光地ホテル取得は、訪日客を自社路線へ誘導する戦略として広く採用されており、業界の新たなトレンドとなっています。
シナジー追求型のM&Aは、買収後の価値創造の幅を広げる代表的なアプローチです。
関連ページ:ビジネスホテル経営のメリット・手順・成功事例|Tabiji Partners
ホテルM&Aで買い手が得られるメリット

ホテル買収には、新規開業にはない多面的なメリットがあります。
ここでは、買い手企業が享受できる5つの主要メリットを整理して解説します。
インバウンド需要への参入と拠点拡大
ホテル買収の最大のメリットは、急成長中のインバウンド市場へ即座に参入できる点です。
新規開業では立地確保・建設・許認可取得に数年単位の時間がかかりますが、M&Aなら既存物件をそのまま活用できます。
東京・大阪・京都・福岡などインバウンド需要の集中エリアで、稼働実績のあるホテルを取得することで、初年度から安定的な収益が期待できます。
また、地方観光地のリゾートホテル取得により、エリア多角化と季節性リスクの分散も同時に実現可能となります。
インバウンド需要が伸び続ける環境下では、エリア戦略を素早く展開できるM&Aの価値は一段と高まります。
新規開業と比べて収益化までの期間短縮
ホテルの新規開業には、用地取得・設計・建設・採用・許認可で平均3〜5年を要します。
M&Aによる買収であれば、稼働中のホテルをそのまま取得できるため、買収完了から即時に収益化できる点が大きな魅力です。
また、集客実績・OTA評価・リピーター基盤もまとめて承継できるため、ゼロからの集客努力を回避できます。
建設コストの高騰や工期長期化が続く近年は、新規開業の総投資額がM&Aによる取得を上回るケースも増えています。
スピードが競争力の源泉となるホテル業界では、M&Aによる時間短縮効果は計り知れない価値を持ちます。
既存スタッフや運営ノウハウの獲得
ホテル運営には、フロント・予約管理・清掃・F&B・支配人など多様な専門スキルを持つスタッフが不可欠です。
新規開業では、これらの人材確保と育成に数年単位の時間とコストを要します。
M&Aでは、経験豊富な現場スタッフをそのまま承継できるため、運営の連続性が確保されます。
また、売り手が長年蓄積してきた地域に根ざした運営ノウハウや顧客対応も同時に獲得でき、買収後の運営立ち上げが格段にスムーズになります。
業界全体の人手不足が深刻化するなか、人材ごと取得できるM&Aは戦略的価値が極めて高い選択肢となります。
旅館業の許認可を引き継げる
2023年12月の旅館業法改正により、事業譲渡でも旅館業の許認可を引き継ぐことが可能となりました。
従来は事業譲渡の場合、買い手側で改めて許認可を取得する必要があり、保健所・消防署への申請に数か月を要していました。
改正後は、手続きの簡素化と取引スピードの向上が実現し、M&Aの実務的負担が大幅に軽減されました。
株式譲渡と事業譲渡のスキーム選択がより柔軟になり、買い手にとってM&Aを活用しやすい制度環境が整っています。
法改正を背景に、ホテル・旅館M&Aの件数増加は今後さらに加速していくと見込まれます。
スケールメリットによる運営効率化
ホテル買収による拠点拡大は、スケールメリットを通じた運営効率化につながります。
仕入れ・予約システム・人材配置・広告宣伝などを複数施設で共通化することで、コスト構造を大幅に改善可能です。
PMS(プロパティ・マネジメント・システム)やCRMを統合することで、グループ全体での顧客分析・収益最大化も実現できます。
多店舗展開によるブランド価値向上と直販比率アップで、OTA手数料を抑えつつ収益力を高められる効果も大きなメリットです。
また、人材ローテーションやノウハウの相互活用により、運営品質の底上げとリスク分散も図れます。
ホテルM&Aで売り手が得られるメリット

ホテルM&Aは、売り手側にも多くのメリットをもたらします。
ここでは、事業承継・財務負担解消・新展開という3つの観点から、売り手側の主要メリットを解説します。
事業承継と従業員の雇用継続
ホテル売却の最大のメリットは、後継者不在の解消と従業員の雇用継続です。
親族・社内承継が難しいホテルでも、M&Aによる第三者承継であれば事業を存続できます。
廃業を選択すれば、長年貢献してきた従業員を解雇せざるを得ませんが、M&Aなら買い手の下で雇用が継続されます。
規模の大きな買い手に売却すれば、雇用条件・福利厚生・キャリアパスがむしろ改善されるケースも珍しくありません。
創業家のブランドや理念を尊重してくれる買い手を選べば、伝統継承と経営効率化の両立も期待できます。
経営者として最後まで従業員と地域への責任を全うできる選択肢といえます。
個人保証や負債からの解放
ホテル経営者は、金融機関からの借入金に対し個人保証を提供しているケースが多く、長年にわたるプレッシャーから逃れられない状況にあります。
M&Aに伴い、金融機関との協議によって経営者保証が解除または変更される場合があります。ただし、保証解除には金融機関の同意が必要であり、M&Aの成立によって自動的に解除されるものではありません。
老朽化した建物・設備の修繕負担、人手不足、コロナのような外部ショックといった経営リスクからも完全に切り離せる点は大きな安心材料です。
経営者個人の生活設計においても、精神的・金銭的負担の解消は計り知れないメリットとなります。
また、買い手側の信用力で借入条件が改善され、財務基盤が強化されるケースもあり、ホテル事業自体の存続可能性も高まります。
高齢化や体力的な限界を感じた経営者にとっては、極めて合理的な出口戦略です。
創業者利益の獲得と新たな事業展開
ホテル売却では、時価純資産+営業利益数年分の創業者利益を一括で獲得できます。
個人株主が株式譲渡で得た譲渡所得は申告分離課税(税率約20%)で、税負担を抑えやすい構造です。
獲得した資金は、新規事業の立ち上げ、別事業への投資、不動産ポートフォリオの組み替え、相続対策などに活用可能です。
ホテル経営で培ったブランディング・サービス設計・人材育成のノウハウを、新領域に活かして再起業する経営者も多く見られます。
また、引退して老後を悠々自適に過ごす選択肢や、慈善活動・地域貢献に注力する道も開けます。
資金とノウハウを次世代の挑戦に投資する好機となるでしょう。
関連ページ:民泊・ホテル・旅館向けM&A仲介サービス|Tabiji Partners
ホテルM&Aと関連する業界の動き

ホテルM&Aは、ホテル業界単体に閉じない、周辺業界との横断的な動きが活発です。
ここでは、OTA・飲食宴会・IT/DXという3つの関連分野での動きを整理して解説します。
旅行代理店・OTA(オンライン旅行会社)との関係
旅行代理店やOTA(楽天トラベル、じゃらん、Booking.com、Expedia等)は、ホテル集客の主要チャネルとして存在感を強めています。
近年は、OTA運営企業がホテル買収を実施し、自社プラットフォームと宿泊施設を統合する事例も登場しています。
また、OTA戦略に強いホテル運営会社が、OTA活用ノウハウを目当てに買収されるケースも増加。
手数料負担の重さから、ホテル側がOTAに依存しない直販強化を狙ったM&A戦略を進める動きも見られます。
OTA競争激化の中で、ホテルM&Aは集客力強化の重要な切り札となっています。
DX化と組み合わせたチャネル戦略の最適化が、買収後の収益向上を支える鍵となります。
飲食・宴会事業との統合型M&A
ホテルは宿泊・飲食・宴会・ブライダル・MICEといった複合機能を持つ業態であり、飲食・宴会事業との統合型M&Aも活発化しています。
バルニバービによる料理旅館「菊水」買収のように、飲食事業者がホテル・旅館を取得し、料理を軸とした宿泊体験を強化する動きが代表例です。
また、ブライダル事業者がホテル買収で挙式会場として活用するケースや、料亭が宿泊機能を加えて高単価化するケースも増加。
「泊まる×食べる×祝う」を統合した複合エンターテイメント空間の構築が、新たなホテルM&Aのトレンドとなっています。
顧客体験価値を重視する時代の流れに沿った、戦略的なシナジー追求型M&Aといえるでしょう。
IT・DX関連企業によるホテルテック領域への参入
IT・DX関連企業によるホテルテック領域への参入も、近年の重要な潮流です。
AI顧客管理システム、自動チェックイン、ダイナミックプライシング、スマートロック、IoT客室管理など、ホテルテックは急速に進化しています。
SaaS事業者・PMSベンダー・予約システム会社が、自社技術を実装する場としてホテルを買収する事例が増えています。
また、人手不足の解決を目的に、テック企業がホテル運営に参入するケースも珍しくありません。
ホテル業界とテック業界の融合が、業界の生産性向上を加速させる要因となっています。
サステナビリティ対応(省エネ・エコ運営など)を主軸にしたM&Aも、若年層向け需要を狙う動きとして注目されています。
ホテルM&Aの最新事例

ホテルM&Aの実際の事例を知ることで、業界の最新動向と買い手の戦略が鮮明に理解できます。
ここでは、業界で注目を集めた5件の代表的な事例を紹介します。
アゴーラ・ホスピタリティー・グループによるホテル資産取得
アゴーラ・ホスピタリティー・グループは、国内外で複数のホテルブランドを運営するホテル事業者です。
同社は国内のホテル資産取得を通じて事業ポートフォリオの拡大を進めており、観光地・都市部の主要ホテルを積極的に取得しています。
インバウンド需要を取り込む拠点拡大戦略として、自社ブランド「アゴーラ」「アゴーラリージェンシー」へのリブランディングを実施。
国際的な顧客ネットワークを活かした集客力向上と運営効率化が、買収後の価値創造を支えています。
ブランド統一によるグループ全体のシナジー創出が、買収後の重要なテーマとなっています。
ロイヤルホテルと米国不動産ファンドBGOの資本業務提携
ロイヤルホテル(リーガロイヤルホテルブランド)は、米系不動産投資ファンドベントールグリーンオーク(BGO)との資本業務提携を発表しました。
ロイヤルホテルは大阪・京都・東京・成田で主要ホテルを運営する伝統的日本ホテルチェーンです。
海外ファンドが日本の老舗ブランドを取得する象徴的案件として、業界で大きな注目を集めました。
BGOは資本投入により施設のリブランディングと収益性向上を進める方針で、伝統と国際資本の融合を図る代表事例となっています。
海外資本による日本のホテル取得は、市場の国際化を象徴する潮流となっています。
大和財託による須賀谷温泉の完全子会社化
大和財託は、不動産投資・コンサルティングを展開する企業で、滋賀県の老舗温泉旅館「須賀谷温泉」を完全子会社化しました。
須賀谷温泉は400年以上の歴史を持つ伝統ある温泉宿で、事業承継を目的にM&Aを実施しました。
買い手の大和財託は、不動産事業の知見を活かしてホテル・旅館事業へ参入する戦略の一環として、本案件を実行。
歴史ある旅館の伝統を守りつつ、現代的な経営手法とインバウンド需要への対応で価値を高めるモデルケースとなっています。
異業種・他業種からのホテル事業参入を象徴する事例として、業界で広く参考にされています。
ヒューリックによる日本ビューホテルの株式交換M&A
ヒューリックは、東京を中心に不動産事業を展開する大手不動産会社で、日本ビューホテルを株式交換によりM&Aで取得しました。
日本ビューホテルは、ホテル浅草ビューホテル、奥日光・湯西川・那須など主要観光地でホテル運営を展開する事業者です。
不動産大手がホテル運営事業へ本格参入する象徴的案件として注目を集めました。
ヒューリックは保有不動産の運用拡大とホテル事業のシナジー創出を狙い、観光地立地の優良物件を一気に取得しました。
株式交換スキームの活用により、現金支出を抑えつつ大規模M&Aを実現した好例として参考になります。
大江戸温泉物語によるタラサ志摩ホテル&リゾートの取得
大江戸温泉物語は、全国に温泉旅館・温浴施設を展開する大手温泉旅館チェーンで、タラサ志摩ホテル&リゾートを取得しました。
タラサ志摩ホテル&リゾートは、三重県志摩市の伊勢志摩国立公園内に立地するリゾートホテルです。
大江戸温泉物語は、全国の温泉旅館チェーンの拠点拡大とリゾート分野での事業強化を目的にM&Aを実行。
自社の温泉運営ノウハウとリゾート資産の組み合わせで、新たな顧客層の取り込みと収益向上を図る戦略となっています。
既存事業のノウハウを活かしてシナジーを創出する、王道的なホテルM&Aの好例といえるでしょう。
旅館・ホテルの事業承継で直面しやすい課題
宿泊施設の承継は、一般的な事業承継に加えて、装置産業ならではの難しさがあります。代表的なものは次のとおりです。
- 建物・設備の老朽化と、今後必要になる大規模修繕・設備更新(CAPEX)の負担
- 旅館業許可・消防・用途など、許認可や行政手続きの取り扱い
- 土地建物を所有しているのか、賃借しているのか(賃貸借契約・オーナー承諾の要否)
- 支配人・料理長・仲居など、属人性の高い運営体制の維持
- 温泉権・源泉利用権といった旅館固有の権利関係
- 個人保証・借入の引き継ぎ
これらは、承継のタイミングが遅れるほど選択肢が狭まりやすい論点です。早い段階で現状を整理することが重要です。
事業承継の3つの選択肢
1. 親族承継
子や親族へ引き継ぐ方法です。理念や屋号を残しやすい一方、後継者の意思や適性、個人保証の引き継ぎがネックになりやすく、近年は選択できないケースも増えています。
2. 従業員承継(社内承継・MBO)
支配人など役員・従業員が引き継ぐ方法です。運営を熟知した人材が継ぐため事業の連続性を保ちやすい反面、株式取得や借入・個人保証の引き受けといった資金面の課題が生じやすくなります。
3. 第三者承継(M&A)
社外の企業・投資家へ譲渡する方法です。後継者不在でも廃業を避けやすく、従業員の雇用継続や施設の存続につながりやすいことが特徴です。譲渡対価を受け取れる、金融機関との協議によって経営者保証の解除・変更につながる場合があることも、経営者にとってのメリットになり得ます。
後継者不在なら「第三者承継(M&A)」が有力な選択肢
後継者が見つからない場合、廃業してしまうと、従業員の雇用や地域の宿泊機能、これまで積み上げてきた予約・口コミといった無形の資産まで失われてしまいます。第三者承継(M&A)であれば、事業を必要とする買い手へ引き継ぐことで、これらを次の担い手に託すことができます。旅館・ホテルは、立地や収益性、許認可、ブランドを評価する買い手が一定数存在する領域です。
売却の具体的な進め方や相場観については、旅館売却の方法・相場・流れやホテル売却の方法と高値売却のポイントもあわせてご確認ください。
旅館・ホテルのM&A・事業承継で特に重要な論点
- 許認可・行政手続き:旅館業許可の取り扱いは、株式譲渡か事業譲渡かなどスキームによって考え方が異なります。消防・用途を含め、所管行政への確認が必要です。
- 賃貸借・オーナー承諾:建物を賃借している場合、賃貸借契約の承継や転貸承諾、オーナー様の承諾の有無が論点になります。
- 運営体制の承継:支配人・料理長・現場スタッフ、外注先を含む運営体制をどう引き継ぐかが、成約後の安定運営を左右します。
- 温泉権・源泉利用権:旅館固有の権利について、契約や利用条件の確認が欠かせません。
- 施設・設備とCAPEX:修繕履歴、今後の設備更新の見込みを整理します。
- OTA・予約・口コミ・顧客情報:OTAアカウントやサイトコントローラー、予約済みゲスト、口コミ評価の取り扱いを確認します。
旅館業の売買相場(企業価値・マルチプル)
旅館業のM&Aにおいて、売却価格(買収価格)はどのように決まるのでしょうか。
一般的な不動産売買とは異なり、事業としての収益力が評価の基準となります。
相場は「年間利益の2.0〜3.5倍」
事業の価値を算定するアプローチはいくつかありますが、最もよく使われるのが「マルチプル法(年買法)」です。
旅館業や宿泊事業においては、一般的に「実質的な年間利益(EBITDA)の2.0〜3.5倍」が売買価格の目安となるケースが多いです。
例えば、実質的な年間利益が1,500万円の旅館であれば、3,000万円〜5,250万円程度が一つの目安となります。
(※土地や建物を所有している場合は、これらの純資産価値がさらに加算されます)
旅館業M&Aの流れ(売却側・買収側)
実際にM&Aを進める場合、買い手探しから引き渡しまでには通常2〜4ヶ月程度(最短14日)の期間がかかります。
以下に、大まかな流れを解説します。
売却(譲渡)側の流れ
- 価値算定と専門家への相談:まずは自社の施設がいくらで売れるか、M&A仲介会社に無料査定を依頼します。
- アドバイザリー契約の締結:仲介会社と契約を結び、買い手探しのための資料(インフォメーション・メモランダム等)を作成します。
- 買い手とのトップ面談:関心を持った買い手候補の経営者と面談を行い、理念や条件のすり合わせを行います。
- 基本合意:条件がまとまれば、独占交渉権を付与する基本合意書を締結します。
- 買収監査(デューデリジェンス)への対応:買い手側の専門家(公認会計士や弁護士など)による細かな帳簿調査や法務チェックに対応します。
- 最終契約・引き渡し:最終的な譲渡契約を結び、決済と同時に事業を引き渡します(事前の保健所への承継承認手続きを忘れずに行います)。
買収(譲受)側の流れ
- ニーズの登録と案件探し:希望するエリアや予算、利回りなどの条件をM&A仲介会社に伝え、案件の紹介を受けます。
- ノンネームシートの検討と開示請求:匿名情報で興味を持った案件があれば、秘密保持契約(NDA)を結び、詳細情報(実名や財務データ)を開示してもらいます。
- トップ面談と意向表明:売り手案件の経営者と面談し、買収の意思が固まれば意向表明書を提出します。
- 買収監査(デューデリジェンス)の実施:専門家に依頼し、対象事業に隠れた負債(簿外債務)や法務的なリスクがないか徹底的に調査します。
- 最終条件の交渉と契約:監査結果を踏まえて最終的な価格や条件を調整し、譲渡契約を締結します。
M&Aは旅館業の事業承継を実現する有効な方法の一つですが、成功には早期からの準備が欠かせません。
後継者の選定や承継スケジュールの策定など、事業承継計画の立て方について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
関連:すぐ知るべき!「事業承継7つの対策」を承継コンサル徹底解説|株式会社Pro-D-use
M&A仲介会社への費用(レーマン方式)について
多くのM&A仲介会社では「レーマン方式」と呼ばれる、取引額(譲渡価格)に応じた手数料体系を採用しています。
Tabiji Partnersの場合、売り手様(譲渡企業様)は完全成果報酬制となっており、着手金や中間金は不要です。成約した場合のみ、以下の料率で手数料が発生します。(※最低手数料は100万円〜)
- 1,100万円未満:110万円(固定)
- 3,000万円以下:9%
- 3,000万円〜5,000万円未満:8%
- (以降、取引額が上がるにつれて料率は下がります)
ホテルM&Aを成功させるためのポイント

ホテルM&Aを成功に導くには、買収前後の戦略設計と実務対応が極めて重要です。
ここでは、買い手側が押さえるべき4つのポイントを解説します。
買収目的とPMI(統合後計画)を明確にする
ホテルM&A成功の第一歩は、買収目的とPMI(Post-Merger Integration:統合後計画)を明確化することです。
「インバウンド需要参入」「拠点拡大」「ブランド強化」「DX加速」など、買収目的を具体化することで、対象案件の選定や交渉戦略が一貫します。
PMIでは、ブランド統合・人事制度統合・システム統合・運営方針の調整などを計画的に進めることが必要です。
M&Aの成否はPMIで決まるといわれるほど、買収後の統合プロセスが価値創造を左右します。
クロージング前からPMI計画を準備し、買収後すぐに実行に移せる体制を整えることが重要です。
立地・不動産価値と収益性を多面的に評価する
ホテルM&Aでは、立地・不動産価値と収益性を多面的に評価することが重要です。
駅近・観光地・空港アクセスなどの立地特性は、ホテルの長期価値を決定づける最重要要素です。
また、OCC・ADR・RevPAR・GOPなどの運営指標で収益性を精査し、改善余地と成長ポテンシャルを見極めましょう。
収益還元法・DCF法・EBITDAマルチプル法など複数の評価手法を組み合わせることで、適正な譲渡価格判断が可能となります。
周辺競合の動向や、自治体の観光政策・規制動向もあわせて分析することで、より精度の高い投資判断が可能となります。
ホテル特有のデューデリジェンス項目を押さえる
ホテルM&Aでは、業界特有のデューデリジェンス項目を漏れなく実施する必要があります。
財務・法務・税務・労務に加え、建物の劣化状況・耐震性・消防設備・大規模修繕計画などを精査することが必須です。
また、運営委託契約・フランチャイズ契約・OTA契約・PMS契約の承継条件、旅館業許可の有効性も確認すべき重要論点です。
ホテルDDの専門知見を持つアドバイザーの活用が、リスクを見逃さない買収の鍵となります。
DDで把握したリスクは、譲渡価格交渉や表明保証の設計に反映させ、買収後のトラブル回避につなげましょう。
運営体制と従業員の引き継ぎ計画を準備する
ホテルM&Aでは、運営体制と従業員の引き継ぎ計画を入念に準備することが成功の鍵です。
支配人・フロントマネージャー・調理長などキーパーソンの継続雇用は、運営の連続性を確保するうえで不可欠です。
クロージング前後で従業員への丁寧な説明と不安解消を行い、人材流出を最小限に抑えましょう。
買収後100日プランとして、初期統合フェーズの具体施策を設計し、従業員と顧客の信頼を確保することが買収価値を最大化します。
リテンション・ボーナスやストック・オプションなど、キーパーソンを引き留めるインセンティブ設計も有効な手段です。
関連ページ:民泊・ホテル・旅館向けPMI支援サービス|Tabiji Partners
ホテルM&Aの相談先と仲介会社の選び方

ホテルM&Aを成功に導くには、最適な相談先と仲介会社の選定が極めて重要です。
ここでは、宿泊業特化仲介・マッチング力・契約条件という3つの観点から、選び方のポイントを解説します。
宿泊業界に精通した専門仲介会社の強み
ホテルM&Aを成功させる最大のカギは、宿泊業界に精通した専門仲介会社を選ぶことです。
一般的なM&A仲介会社では、ホテル業特有の許認可・収益指標(OCC・ADR・RevPAR・GOP)・運営委託契約への理解が浅く、最適なスキーム設計や買い手選定が難しいケースがあります。
宿泊業特化のM&A仲介会社であれば、業界特有の論点を踏まえた的確な戦略設計が可能となり、業界相場感を踏まえた適正価格交渉を実現できます。
また、民泊・ホテル・旅館を一貫して扱う仲介会社であれば、業態を横断した買い手・売り手のマッチングが期待でき、より幅広い選択肢から最適な相手を見つけられます。
業界知識の深さが、成約率と取引価値を大きく左右します。
マッチング力と買い手候補ネットワークの重要性
ホテルM&Aでは、仲介会社のマッチング力と買い手候補ネットワークが成約の決め手となります。
大手チェーン・REIT・ファンド・異業種・海外投資家など、多様な買い手候補と日常的に接点を持つ仲介会社であれば、最適な譲渡先候補を迅速に提案できます。
独自のM&Aコミュニティを保有する仲介会社は、表に出ていない潜在的買い手にもアプローチでき、競争原理を働かせた高値売却が期待できます。
過去の成約実績、扱った案件数、取引規模などを確認し、自社案件と相性の良い仲介会社を見極めましょう。
ネットワークの広さと深さが、最終的な譲渡価格を大きく左右する要素となります。
料金体系と契約前の確認事項
M&A仲介会社の料金体系と契約条件は、契約前に必ず確認すべき重要事項です。
業界一般的な料金体系には、着手金・中間金・成功報酬の3種類があります。
料金体系は仲介会社によって異なり、費用の発生時期や金額もさまざまです。着手金・中間金の有無やテール条項なども含め、契約前に必ず確認することが重要です。
また、専任契約・非専任契約の違い、解除条件、テール条項(契約終了後の成功報酬発生条件)なども事前確認が必須です。
契約締結前にアドバイザーとの相性や提案内容の質を比較・検討し、長期的なパートナーシップを築ける仲介会社を選びましょう。
まとめ
ホテルM&Aは、インバウンド需要の急回復と業界再編の加速を背景に、買い手・売り手双方にとって絶好の機会となっています。
買い手にとっては新規開業を上回る時間・コスト効率で拠点拡大が可能で、売り手にとっては事業承継と創業者利益の獲得を実現できる選択肢です。
成功の鍵は、買収目的の明確化、ホテル特有のDD実施、PMI設計、そして宿泊業特化のM&A仲介会社の活用にあります。
ホテル・旅館・民泊の譲渡や買収をご検討の方は、宿泊業特化のM&A仲介サービスへお気軽にご相談ください。
ホテル・旅館の売却・事業承継をご検討の方へ
株式会社Tabiji Partnersでは、ホテル・旅館をはじめとする宿泊業に特化したM&Aの支援を行っています。売却価格の考え方、事業承継、許認可、従業員・運営体制の引継ぎなど、宿泊業特有の論点を踏まえてご支援します。具体的な売却時期が決まっていない段階でも、無料でご相談いただけます。
監修:株式会社Tabiji Partners 代表取締役 濱口優太郎(宿泊事業専門のM&A仲介)
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