後継者不在の旅館・ホテルの選択肢|親族承継・従業員承継・M&A・廃業の比較

後継者が決まっていない旅館・ホテルでは、親族への承継、従業員・役員への承継、第三者への承継(M&A)、廃業のいずれかを選ぶことになります。どの選択肢が適しているかは、施設の状態、借入や経営者保証の状況、従業員や取引先への影響、経営者様のご意向によって異なります。
本記事では、4つの選択肢の違いと、旅館業の許可や税制など公的資料で確認できる論点(2026年9月29日確認)を整理します。個別の判断は、税理士・弁護士・行政書士などの専門家や、所管の保健所等へのご確認をお願いいたします。
4つの選択肢の比較
| 選択肢 | 概要 | 主な論点 |
|---|---|---|
| 親族承継 | ご子息・ご親族に経営を引き継ぐ | 後継者の意向と準備期間、株式・事業用資産の贈与・相続と税負担、経営者保証の引継ぎ |
| 従業員・役員への承継 | 施設をよく知る従業員・役員が引き継ぐ | 株式や事業の取得資金、借入・経営者保証の引継ぎ、他の従業員との関係 |
| 第三者への承継(M&A) | 同業者・事業会社・投資家などへ株式や事業を譲渡する | 買主様との条件の調整、許可・契約・雇用の引継ぎ、秘密保持 |
| 廃業 | 営業を終え、資産・負債を整理する | 廃止の届出、従業員・取引先・予約済みのお客様への対応、建物・借入の整理 |
旅館業の許可は、選択肢によって手続きが異なります
相続・合併・分割・事業譲渡の場合
改正旅館業法により、2023年12月13日から、事業譲渡の場合も、合併・分割・相続の場合と同様に、承認を受けて営業者の地位を承継できる仕組みが設けられました。厚生労働省の案内資料では、承認の申請は譲渡の前に、譲渡人と譲受人が共同で行うことが想定されており、原則として許可の内容や条件は承継の前後で変わらないとされています。一方で、営業の一部のみを譲渡する場合は対象外とされています(厚生労働省「旅館業法改正」案内資料)。
株式を譲渡する場合
法人が営業者である場合に株式を譲渡するときは、営業者である法人そのものは変わりません。ただし、代表者や役員など申請書の記載事項に変更があったときは、10日以内に届け出る必要があります(旅館業法施行規則第4条)。
廃業する場合
旅館業を廃止したときも、10日以内に届け出る必要があります(旅館業法施行規則第4条)。
どの手続きが必要になるかは、施設の所在地やスキームによって異なる可能性がございます。検討の早い段階で、所管の保健所等に確認することをおすすめいたします。
選択を左右する主な論点
借入と経営者保証
後継者が経営者保証を引き継ぐかどうかは、承継の大きな障害になることがあります。事業承継時の経営者保証については、「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」が2019年12月に公表され、2020年4月から運用が開始されています。あわせて、経営者保証を不要とする信用保証制度(事業承継特別保証制度)も2020年4月に創設されています(中小企業庁「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策」)。保証の取扱いは金融機関との協議事項ですので、早めに相談しておくことが大切です。
事業承継税制の期限
親族や従業員などの後継者に株式を贈与・相続する場合は、法人版事業承継税制(特例措置)の活用が検討対象になります。中小企業庁の案内(2026年9月29日確認)では、特例承継計画を2027年9月30日までに都道府県へ提出し、2027年12月31日までに贈与・相続による承継を行う必要があるとされています。適用の可否や要件は、必ず税理士にご確認ください。
建物・設備の状態
後継者や買主様は、建物・設備の今後の修繕費用を含めて判断することが一般的です。なお、ホテル・旅館で階数3以上かつ床面積の合計5,000㎡以上の建築物は、耐震改修促進法により要緊急安全確認大規模建築物として耐震診断が義務付けられ、所管行政庁が結果を公表しています(国土交通省「建築物の耐震改修の促進に関する法律の概要」)。該当する施設では、診断結果や改修の予定が検討材料になります。
従業員・取引先・地域への影響
廃業の場合は雇用や取引が終了しますが、承継・売却の場合は、雇用や取引先との関係を引き継げる可能性があります。雇用条件の引継ぎは、スキームによって必要な手続きが異なるため、社会保険労務士等への確認を前提に整理します。
検討を始める時期と、準備しておきたい資料
どの選択肢でも準備には時間がかかります。後継者の育成や買主様探しの期間を考えると、施設の状態が良く、経営者様が主体的に判断できるうちに検討を始めることで、選べる選択肢が広がる可能性があります。
- 直近3期程度の決算書と、月次の売上・稼働率・客室単価
- 旅館業の許可証、施設の図面、消防・保健所に関する書類
- 土地・建物の登記事項、または賃貸借契約書
- 借入の一覧と、経営者保証・担保の状況
- 従業員の雇用条件、主な取引先・OTAとの契約
- 修繕履歴と今後の修繕予定
相談先について
地域の公的な相談窓口として、国が設置し独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する「事業承継・引継ぎ支援センター」が全国47都道府県にあり、親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)の相談を無料・秘密厳守で受け付けています(中小機構「事業承継・引継ぎポータル」)。
第三者への承継(M&A)を検討される場合は、株式会社Tabiji Partnersにもご相談いただけます。売主様のご意向を伺い、想定される買主様像や進め方を整理いたします。成約や条件を保証するものではございません。
株式会社Tabiji Partnersのホテル・旅館領域での支援実績は、ホテル・旅館の支援実績のページで、成約(カプセルホテル1件・無人ホテル2件・地方旅館1件)、M&A戦略構築(静岡県等の旅館4件)、経営コンサルティング(3件。現在は新規募集を停止しております)に分けてご紹介しています。なお、当社は不動産の売買仲介は行っておりません。
関連ページ
本記事で参照した公的資料(2026年9月29日確認)
- 厚生労働省「旅館業法改正」(2023年12月13日施行分)
- 旅館業法施行規則(e-Gov法令検索)第4条
- 中小企業庁「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策」
- 中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」
- 国土交通省「建築物の耐震改修の促進に関する法律の概要」
- 中小機構「事業承継・引継ぎポータル」事業承継・引継ぎ支援センター
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